伝記,  本の感想

「ヘレン・ケラー」②

2019年1月23~24日

「ヘレン・ケラー」

フィオ・マクドナルド著

菊島伊久栄著

伝記 世界を変えた人々14

 

 

感想が少し長くなってしまったため、

全3部構成としてさせていただく。

 

今回はその第2回目。

ヘレンとアン、

二人の決して簡単ではない、

尊い真の友情が芽生えるまでの過程をご紹介していこう。

 

 


 

アンにとってこの役目は生易しいことではなかった。

 

ヘレンは乱暴で、短気で、わがままだった。

 

ヘレンにはまず礼儀正しさと我慢することを教えなくては、

アンはそう気づいた。

 

「・・(省略)・・知識が、

それから愛情でさえも、

子どもの心に入り込むには、

まず命令に従うことが必要なのです。」

 

命令に従ってくれなければ、

ヘレンには何も教えられない。

 

アンは、

友だちに宛てた手紙の中で、

自分が直面した問題をいくつか記している。

 

「髪の毛をとかすとか、手を洗うとか、

ブーツのボタンを留めるとか、

そういったごく簡単な作業を彼女にやらせるにも、

有無を言わせず力ずくでやらせる必要があった。

 

いうまでもなく、

その結果痛ましい場面が繰り広げられた。

家族の者はもちろん私のすることを止めたいと思ったでしょう。

特に、ヘレンが泣くのを見るのに耐えられなかったお父さんは・・(省略)・・。」

 

生徒も先生も、それは腹が立ったが、アンの強い信念は変わらなかった。

 

アンが最初に出会った闘いの一つをここで紹介する。

 

それは、自宅の食堂での出来事だった。

7歳のヘレンは、食事中、たいへん悪い習慣を身につけていた。

それは、

他人のお皿から料理を取って食べてしまうこと、

しかも全部手づかみで食べるといった習慣だった。

 

ある月曜日の朝、

ヘレンがアンのお皿から料理を取って食べようとした時、

アンはそれを許さなかった。

さあ、意地と意地のぶつかり合いの始まりだ。

 

あまりのひどい光景に、

食事をしていた家族たちは全員席を立って部屋から出ていってしまった。

 

アンは、ドアに鍵をかけて、最後までどうなるか見守った。

 

ヘレンは大声を出し、

金切り声をあげ、

物を蹴飛ばし、

アンの椅子を下から必死に引っ張って動かそうとした。

 

かわいそうに、

人の命令に従うなんて、

ヘレンにはとても我慢ができなかったのだ。

 

しばらくそうしていても、

アンの反応がなかったので、

ヘレンは、

今までアンが何をしていたのかをそっと見にいった。

 

なんと、

アンは静かに朝食を食べ続けていたのだ。

 

ヘレンは他の人たちのことも知りたくなって、

テーブルをぐるっと一回りしてみた。

驚いたことに、誰もいなかった。

 

2、3分後、

ヘレンは自分の席に戻り、

手で食べ始めた。

 

そこでアンは、

ヘレンにスプーンを持たせた。

 

でもヘレンはそれを床へ投げ捨てた。

アンは、無理やりヘレンを椅子から引きずり下ろしてスプーンを拾わせ、

力ずくでスプーンを使わせた。

 

最後にはヘレンもそれに従った。

 

同じ闘いがナプキンをたたむ時にも起こった。

 

ナプキンを正しい場所にきちんと畳んで、

二人が食堂から出て行ったのは、

1時間後のことだった。

 

アンはぐったりしてベッドに身を投げ出し、

ヘレンは暖かい陽の下へと飛び出して行った。

 

しかし、

これは二人にとってたいへん貴重な体験となった。

 

ヘレンには強い意志と実行力が、

そしてアンには忍耐と愛情があったのだ。

 

アンとヘレンの二人の関係はどんどん良くなっていった。

厳しいけれど愛情のこもったアンの指導に、

ヘレンが応じるようになったのだ。

 

そして二人は教育のため、

家族の住む家から400mほど離れた小さな家に引っ越すことにより、

誰からも邪魔されず、

勉強に打ち込むことができるようになった。

 

自分の思い通りにならないことに出くわしても、

走り寄る家族がいないため、

ヘレンはアンを頼りにし、

アンの言うことに従うようになった。

 

アンにとって

「ちょっとした本物の天国」

であったその家で、

ヘレンはアンと一緒に暮らすことに慣れ、

アンが自分の手のひらに文字を綴ることに関心を示し始める。

 

しかし、

それが何を意味しているのか、

当時ははっきりと理解はしていなかった。

 

「ヘレンは、

今やいくつかの単語を知っていますが、

それをどのようにして使ったらいいのか、

さっぱりわかっていない。

 

ましてや、

物にはそれぞれ名前があるなんてことは、

想像もつかないでしょう。

 

でも、

そのうちに、

彼女はとても早く学ぶようになると思います。

・・(省略)・・驚くほど頭が良くて、活発で、

動きは稲光のように素早いのですから。」

 

待望の進歩が見られたのは、

1887年4月5日、

アンがケラー家へやってきてちょうど1ヶ月くらい経った日のことだった。

 

その日、

ヘレンはどんなものにも名前があり、

手のひらで指文字を綴ることによって、

いくつでもその名前を覚えられることを学んだのだ。

 

それはこのようにして起こった。

以前から

”mug(カップ)”と”milk”とを混同して覚えていた。

 

ある朝、

ヘレンが水を表す言葉を知りたがっているのに気づいたアンは、

ふと思いついた。

”water(水)”という新しい言葉の助けを借りれば、

以前から混同していた”mag”と”milk”の違いをはっきりさせられるのではないかと。

 

「私たちは井戸へ行き、

私は水を汲み上げている間、

ヘレンに水が出てくる口の下でカップを持たせました。

 

冷たい水が勢いよく流れ出した時、

私はヘレンのもう一方の手のひらに”w-a-t-e-r”と綴ったのだ。

 

手の上を冷たい水が流れゆく感動と

その言葉が見事に結びつき、

ヘレンはハッと驚いたようだった。

 

彼女はカップを地面に落として、

その場に立ちすくんだ。

 

顔には、

今まで見たこともない輝きが溢れていた。

 

彼女は、

手のひらに数回”water”つづり、

それから地面にしゃがみ込んでその名前を尋ねました。

 

その後で井戸やぶどう棚の方を指差したりしましたが、

突然振り向いて、

私のことをなんというのか尋ねた。

 

私は

”teacher”

とつづった。」

 

ヘレンの喜び方は、

例えようもなかった。

 

「あの生きた一言が私の魂を目覚めさせ、

私に光と希望と喜びを与え、

まだまだ厚い壁にぶつかるでしょうが・・(省略)・・

それだって時間が経てば、

きっと乗り越えられるでしょう。」

 

この日、

ヘレンは生まれてはじめて、

明日がやってくるのを待ち遠しいと思ったのだった。

 

その時以来、

ヘレンは決して後ろを振り返らなかった。

 

彼女は学ぶ意欲に満ち溢れていた。

 

「ヘレンは、物の名前を尋ねながら、

あっちの物からこっちの物へと身をひるがえして飛び回り、

私にキスをしては喜びを表現しました。」

と、アンは報告している。

 

数週間のうちにヘレンは300以上の単語を覚え、

毎日5、6語の割合でその数を増やしていった。

 

学習に没頭し、

何かを達成できる満足感に満たされたヘレンは、

以前には考えられないほど精神的に安定し、

生き生きとしてきた。

 

今や自分のために言葉の”窓”を開け、

孤独の世界から解放してくれた先生と張り合うのではなく、

その先生を喜ばせたいと思うようになった。

 

サリバン先生も自分の教え子の進歩には目を見張った。

むしろ、恐れおののいたほどだった。

 

彼女は次のように書いている。

 

「生き生きした心の誕生と成長、

それから最初の頃の小さな葛藤を観察できるのは、滅多にないことです。

この特別な名誉は、私に与えられています。

大変に優れた知能を目覚めさせ、

導いてゆくことが私に委ねられているのです。」

 

アンは一日中ヘレンの手のひらに言葉をつづった。

 

人間が言葉を話せるようになるのは、

周りの人たちの話を聞き、

それを真似ていくからだということに気づいたアンは、

耳が聞こえないヘレンには

唯一残された方法で

言葉を

”与えてゆく”

しかないと考えたのだ。

 

この点でもアンは、

その時代の最も独創的な教育者の一人だったと言える。

 

 

 

第3回へつづく。

 

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